授業実践!システム思考

システム思考で「貯まりと流れ」を読み解く:在庫とフローで現象を構造化する授業実践

Tags: システム思考, 在庫とフロー, 授業実践, 中学校教育, 総合的な学習の時間

私たちの身の回りには、常に「貯まるもの」と「流れるもの」が存在し、それらが複雑に絡み合って様々な現象が起きています。例えば、教室のゴミの量、SNSのフォロワー数、地域の貯水池の水量など、これらはすべて「貯まり」と「流れ」の相互作用によって変化しています。

システム思考における「在庫とフロー」の概念は、こうした現象の背後にある構造を理解し、そのメカ動きを洞察するための強力なツールとなります。この視点を授業に取り入れることで、生徒は単なる表面的な事象だけでなく、その根底にあるメカニズムを構造的に捉える力を養うことができます。

本記事では、システム思考の基本的な要素である「在庫とフロー」を中学校の授業でどのように指導し、生徒が主体的に学びを深めるか、具体的な指導法と実践例を紹介します。

1. 「在庫とフロー」とは何か:生徒に伝えるための基礎知識

システム思考において、「在庫(Stock)」と「フロー(Flow)」は、システムの動態を理解する上で不可欠な概念です。生徒にこの概念を伝える際には、具体的な例えを用いることが有効です。

生徒への導入では、「浴槽の水の量」を例に説明すると理解が深まりやすいでしょう。浴槽に貯まっている水の量自体が「在庫」であり、蛇口から流れ込む水が「流入フロー」、排水溝から流れる水が「流出フロー」です。蛇口から流れ込む水の量と排水溝から流れる水の量のバランスによって、浴槽の水の量(在庫)がどのように変化するのかを視覚的に説明できます。

2. 身近な現象から「貯まりと流れ」を体験する授業実践

「在庫とフロー」の概念を授業で実践する際には、生徒にとって身近で関心のあるテーマを選ぶことが重要です。既存の授業時間の一部や総合的な学習の時間に組み込むことも可能です。

授業実践テーマ例

活動ステップ

  1. ステップ1: テーマの選定と問題意識の共有(5-10分)

    • まず、生徒自身に「最近、増えたり減ったりしていると感じる身近なものは何だろう?」と問いかけ、興味のある現象を自由に挙げさせます。
    • 教師が特定のテーマを提示し、「なぜその現象は増えたり減ったりするのだろうか?」「私たちはその変化のどの部分に関わっているだろうか?」といった問いかけを通じて、生徒の問題意識を引き出します。
  2. ステップ2: 在庫とフローの特定(15-20分)

    • 選定したテーマについて、グループで話し合い、「貯まっているもの(在庫)」と、その在庫を「増やす流れ(流入フロー)」、「減らす流れ(流出フロー)」を特定させます。
    • この際、以下のようなワークシートを活用すると、思考を整理しやすくなります。

    ``` 【ワークシート例】「在庫とフロー」で現象を読み解こう!

    ■ テーマ: [例:SNSのフォロワー数の変化]

    1. 貯まっているもの(在庫)は何ですか? [例:SNSのフォロワー数]

    2. 貯まっているものを増やす流れ(流入フロー)は何ですか? [例:新規フォロー、投稿への興味関心、友人・知人からの紹介、インフルエンサーからの言及]

    3. 貯まっているものを減らす流れ(流出フロー)は何ですか? [例:フォロー解除、アカウントの活動停止、不適切な投稿による失望]

    4. それぞれの流れに影響を与える要因は何だと思いますか? [例:新規フォローの要因→投稿の質、投稿頻度、フォロワーによる拡散、キャンペーン] [例:フォロー解除の要因→過度な投稿、炎上、興味の喪失] ```

  3. ステップ3: 在庫とフローの関係性を可視化(10-15分)

    • グループで特定した在庫とフローを、図やイラストを用いて可視化させます。模造紙やホワイトボードの中心に「在庫」を書き、矢印で「流入フロー」と「流出フロー」を示します。
    • さらに、それぞれのフローに影響を与える要因(ステップ2の4番)も書き加えることで、後の因果ループ図作成への足がかりとすることも可能です。
  4. ステップ4: 考察と共有(10-15分)

    • 可視化した図を見ながら、「現在の現象は、どのフローが強く影響していると思うか?」「もしこの現象を変化させたいなら、どのフローに注目して対策を考えるべきか?」といった問いかけで、グループ内での議論を促します。
    • 各グループの発表と全体での共有を行い、異なる視点や発想に触れる機会を設けます。他のグループの事例から学びを深めることで、生徒は様々な現象に応用できる力を育みます。

3. 授業実践のポイントと発展的な学び

既存授業への組み込み方

授業実践のポイント

生徒の気づきと学び

この活動を通じて、生徒は以下のような気づきや学びを得ることができます。

まとめ

システム思考の「在庫とフロー」は、複雑な現象をシンプルな構造で捉え、そのダイナミクスを理解するための基本的なフレームワークです。中学校の授業でこの概念を教えることで、生徒は身の回りの事象を構造的に分析し、本質的な原因を考える力を養うことができます。

身近な事例から段階的に実践することで、生徒はシステム思考が実社会の問題解決に応用できる強力なツールであることを実感するでしょう。ぜひ、本記事で紹介した指導法を日々の授業に取り入れ、生徒の「システムを読み解く力」を育んでいただきたいと考えます。